珍獣の森、再訪
アティトラン湖を出て、我々が次に向かったのは、ロス・タラレス自然保護区(Reserva Los Tarrales)。私にとっては1年4か月ぶりの訪問だ(前回の旅の詳細は2015年9月11日のブログを参照)。さあ、今回も色とりどりの蝶、そして珍獣たちに出会えるだろうか…。
コーヒーの苗
保護区のゲートを通り過ぎてまず目についたのは人。総勢100人近くものグアテマラ人が建物の周りにいる。彼らはコーヒー収穫のために県外から出稼ぎに来た人達。Finca Los Tarrales(ロス・タラレス農園)の別称が示す通り、そして上の写真のように、ここはコーヒー農園でもあるのだ。彼らは基本的に1か月間の契約で出稼ぎに来ており、1か月経てばまた次のグループの人達がやって来るというわけだ。コーヒーはグアテマラの主要産業だが、その裏にはこんな大規模な人の移動があったことを気付かされた次第。
さて、昆虫の話に入ろう。まずチョウだが、乾季に入ってしまったせいか、前回に比べてはるかに少ない。モルフォもわずか1回しか目撃できず。それでも、下の写真の種をはじめ、ドクチョウ、トンボマダラの類は比較的多く観察することができた。
アゲハの一種 Parides eumerides (Papilionidae)
タテハチョウの一種 Pyrrhogyra otolais (Nymphalidae)
甲虫は、宿舎の近くでこれら2種を発見!
カミキリムシの一種 Cerambycidae sp.
ベニボタルの一種 Lycidae sp.
夜には恒例のナイター(灯火採集)を実施。今回は2泊したので場所を変えて二晩連続で試みたが、それほど多くの昆虫は集まらず。両地点とも開けた場所にあるためか、それとも乾季だからか…。それでも、下のような奇怪な昆虫を見ることができて満足。下のカノコガは本当にハチそっくりで、その擬態の精巧さには恐れ入る。
カノコガの一種 Isanthrene sp. (Erebidae: Arctiinae: Ctenuchini)
ビワハゴロモの一種 Fulgoridae sp.
そして、再びこの動物に遭遇!
オジロジカ
前回同様、夕方にキャビンの付近で親子連れ(メス1頭&子供数頭)を目撃。キャビンの周りには農地が広がっていて、いろいろな作物が植わっているので、シカにとっては格好の採餌場所なのだろう。その証拠に、翌朝にも同じ場所で数頭目撃した。
ただ、今回の訪問で最も興味を惹かれたのは、もっともっと小さな動物。それはヤシの花に飛来した虫たちだ。
テーブルヤシの一種 Chamaedorea tepejilote
開花中のヤシの花序を見つけたので、何気なく見てみると、ショウジョウバエ、ハネカクシ、そして謎の微小甲虫が多数群がっている。この甲虫はてっきりケシキスイだとばかり思っていたが(なぜならヤシの花にはMystropsという属のケシキスイが集まるため)、後日顕微鏡で観察してみると、違う科であることが判明。
ヤシの送粉様式は非常に面白い。風媒の種もあれば、虫媒の種もあり、さらに両方の様式を併せ持つ種もある(例えば南米に分布するOrbignya phalerataなど)。そして、虫媒の種における主な送粉者は甲虫、とりわけケシキスイ科とゾウムシ科で、ケシキスイ科の中ではMystrops属のみが特異的にヤシの花を訪れる、というわけだ。
このヤシの一般名はPacaya。中米では若い花序が食用として利用されており、市場などでよく売られている。論文を検索してみたところ、Pacayaは風媒とのこと。ただし、前述のように、風媒の種であっても、昆虫が送粉に寄与している可能性は大いにある。ということは、この甲虫はひょっとしたら送粉者なのかも…と妄想は膨らむ。
ヤシの送粉シンドロームに関しては今までに多数の研究がなされてきているが、Pacayaの花に集まる昆虫に関する研究はほとんどない。Pacayaを含めたグアテマラのヤシの訪花昆虫相をきちんと調べてみる価値はありそうだ。
さて、旅の方はといえば、この後首都を経由して、最終目的地に向かう。行先は、本ブログで度々紹介してきた、あの乾燥林。次回へと続く。