Insecta Mesoamericana

グアテマラ在住の虫屋が綴る自然誌雑記

数字蝶の謎 ~その2~

グアテマラの名産品と言えば、言わずと知れた、コーヒー。中米に詳しくない人でも、グアテマラと聞けば、真っ先にコーヒーが思い浮かぶのではないだろうか。総生産量は数年前にホンジュラスに追い抜かれたものの、品質とブランド力は中米一であることは間違いない。今日は、そんなコーヒーにまつわる話。先週の金・土曜に、同僚のつてでコーヒー農園で昆虫調査をする機会を得た。さあ、今回はどんな出会いが待ち構えているのだろうか。

 

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ここはサンタ・ロサ県のサンタ・イサベル農園(Finca Santa Isabel)。100年以上前に設立された歴史ある農園だ。写真のように、野生の樹木をシェードツリー(陰を作るための植物)として残し、その周りにコーヒーを植えるという環境配慮型農法が行われている。

 

農道沿いには数多くの蝶が舞っている。水たまりで集団吸水している個体もいる。大半は普通種だったが、格好良いツルギタテハが見られたのは嬉しかった。

 

 

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チロンツルギタテハ Marpesia chiron (Nymphalidae)

 

コーヒーの周りには雑草が繁茂しているため、バッタ・キリギリスが非常に多い。

 

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キリギリスの一種 Tettigoniidae sp.

 

バッタといえば、こんな巨大種も! 地元の人が数日前に捕まえておいてくれたもの。何度見ても、その形、色、そして大きさにはびっくりさせられる。

 

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ヨロイバッタの一種 Tropidacris cristata (Romaleidae)

 

印象的だったのは、様々な種類のキノコが見られたこと。前述のように雑草が多くて下層植生が維持されているために適度な土壌水分が保たれており、さらに落葉・落枝・倒木といった腐植物も十分に供給されているからだろう。そして、これらのキノコにはまた多様な菌食性昆虫が生息している。同僚がこれらの虫を喜び勇んで採集していく。

 

夜には例のごとく灯火採集を実施。すぐ前に小さな川があるせいか、カゲロウやヘビトンボなどの水生昆虫が飛来。甲虫が少なかったのは残念だったが、ツバメガをはじめとする新顔の昆虫を見られたので満足。

 

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ヘビトンボの一種(メス) Corydalus sp. (Corydalidae)♀

 

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ツバメガの一種 Uranidae sp.

 

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スズメガの一種 Perigonia sp. (Sphingidae)

 

翌朝、何気なく辺りを散歩していると、金属光沢の蝶が飛来。慌てて捕まえてみると、なんとプルラで見たアンナウラモジタテハDiaethria anna! ここの標高は約1050m。よって、この時点で標高仮説(標高1400m付近を境にD. annaD. astalaが住み分けている)は棄却された。

その後、同僚と共に調査開始。農道を歩いていると、再びメタリックブルーの蝶が…。青色が若干濃い気がする。もしやと思い、捕まえてみると、なんと今度はアスタラウラモジタテハ D. astala! 要するに、ここでは二種が共存しているのだ。その後も次々とウラモジタテハに遭遇。観察個体数は、D. annaが7個体、D. astalaが2個体。サンプル数が少ないものの、現時点ではアンナの方が優占傾向にあるようだ。

さあ、この結果は何を意味するか? なぜロス・セリートスではアスタラしか分布せず、プルラにはアンナしか分布しないのに、ここでは両種が見られるのか? 謎は深まるばかり…。と同時に、俄然面白くなってきた。

 

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アスタラウラモジタテハ(左)とアンナウラモジタテハ(右) Diaethria astala & D. anna