Insecta Mesoamericana

グアテマラ在住の虫屋が綴る自然誌雑記

湖岸に広がる森の多様性

11月後半に旧友と一緒にグアテマラ各地を旅行した。やや駆け足ではあったが、グアテマラの自然と文化の多様さに触れることのできた1週間だった。特に、植生の異なる4か所の森を訪問できたのは、私にとっても非常に興味深かった。そこで、今回から3回に分けて、我々が訪れた森とそこに棲む生き物たちを順に紹介することにしよう。

 

最初の訪問地はアティトラン湖。その美しさはグアテマラ随一と言われており、湖畔の街パナハッチェル(以下、パナ)はグアテマラを代表する観光地の一つ。さらに、湖岸沿いには様々な文化・伝統を持つマヤの人々が暮らす村が点在しており、こうした文化的多様性もこの地域の大きな魅力となっている。

下の写真はパナの船着場から撮影したもの。向こうに見えるのはアティトラン火山だ。

 

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最初に訪れたのは、サン・マルコス・ラ・ラグーナ。パナからボートで40分ほどの所に位置する、こぢんまりとした村だ。至る所にヨガ、指圧、ホリスティック・セラピーなどの教室の看板が目につく。それらが並ぶ路地を抜けて辿り着いたのは、セロ・ツァンクヒル(Cerro Tzankujil)という森林公園。湖岸一帯の標高は1500m前後で、山地林(マツ・カシ林)が優占しているが、このエリアにはわずかながらも乾燥林が分布しているのだ。

 

園内にはサボテンやパロ・ヒオテ(Bursera simaruba: Burseraceae)など、ロス・セリートスでお馴染みの植物が見られる。マツとの混交林ではあるものの、確かに乾燥林植生の特徴を有しているのがわかる。

  

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ウチワサボテンの一種

  

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イトトンボの一種

  

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飛び込み台から火山を臨む

 

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マヤの祭壇

 

さらに面白いのは、この森にはマヤの遺跡が残っていること。上の写真の祭壇のほかに、3つの祭壇がある。向かいにある丘もマヤの人々にとっての聖地だそうだ。グアテマラの乾燥林には、ロス・セリートスも含め、マヤ時代の文化遺産と一体となった場所が多いが、この地域もそうした森の一つと言えよう。

 

翌日にはパナの外れにあるアティトラン自然保護区(Reserva Natural Atitlán)を訪問。入口には日本語の看板まである。

 

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ここの目玉はグアテマラ唯一の蝶園。園内には飼育室があり、羽化した蝶が毎日ドーム内に放されている。蛹も展示されており、運が良ければ羽化の瞬間を見ることができる。ここに来るのはもう4回目だが、何度来ても心癒される空間だ。

 

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オオカバマダラの蛹

 

この保護区の森の植生はマツ・カシ林。園内には林道が整備されており、野生の蝶も豊富に見られる。すぐ下の写真の蝶はアゲハそっくりだが、実はシロチョウの仲間。 

 

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タカネマダラシロチョウの一種 Catasticta nimbice (Pieridae)

 

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ヒカゲチョウの一種 Oxeoschistus tauropolis (Nymphalidae: Satyrinae)

 

この後、我々はアティトラン湖東側の山々の間を抜け、本ブログで以前紹介したロス・タラレスへと向かう。その話は次回に…。