蝶吹雪!
季節変化というのはこれほど凄まじいものなのか。それを思い知らされる出来事が先月末にあった。
6月20日、例の乾燥林保護区を再訪。雨季に入ってから初めての調査だ。麓の道沿いの木々はみな若葉をつけており、その新緑が眩しい。昆虫もさぞかしいろんな種が出現していることだろうと期待に胸が高まる。
なお、この写真は保護区の中で2月末と同じアングルから撮影したもの。
林道を車で走っていたその時、水たまりで吸水する蝶の集団を発見。車を降りると同時に、その蝶たちが一斉に舞い上がる。まさに蝶吹雪! あまりの光景にしばし呆然と立ちつくす。我に返って車に戻り、荷物を宿舎に置きに行った後、再び戻って来てゆっくり観察することに…。
優占種は下の写真のキノハタテハとシロチョウ類。キノハタテハは裏面はこのように地味だが、表は鮮やかな赤茶色をしている。飛び立った時にその色がフラッシュして印象的だ。シロチョウは少なくとも5種はいるだろうか。真っ白な種から、淡黄色の種、山吹色、オレンジ色の種まで、色とりどりだ。
アメリカキノハタテハ Anaea aidea (Nymphalidae)
水たまりで吸水するシロチョウ類 Pieridae spp.
そしてこんなカラフルな種も…。下のシジミタテハはロス・セリートスでは見られなかった種だ。
ボルボネウラタテハ Bolboneura sylphis (Nymphalidae)
トガリバシジミタテハ Lasaia sula (Riodinidae)
他によく目についたのがこの種。頭部先端の突起が天狗の鼻のように見えることから、この名がつけられている。ロス・セリートスでは2年間で1頭しか採集されなかったが、ここではわずか数時間で10頭以上も確認。こんなところにも両調査地の蝶相の違いが見て取れる。
ナンベイテングチョウ Libytheana carinenta (Nymphalidae)
さて、日没後、満を持してナイター(灯火採集)を開始。いわゆる「当たり」の日には、電灯を付けた直後から虫が飛来し始めるものなのだが、この日は20分以上経ってもツチカメムシばかり…。今日は外れかと思いかけたその時、蛾が徐々に飛来し始める。そして、あれよあれよといううちに、シーツはこんな状態に!
灯火に飛来した蛾
なんと中型・小型のヤガ・シャクガ・メイガが次から次へとやって来る! 大型種が少ないぶん、派手さには欠けるものの、その光景たるや圧巻。
甲虫では、大きさ・形の様々なカミキリムシが次々飛来。まだ標本をカウントしてないが、おそらく10種以上はいたはず。その多様性の高さに改めて度肝を抜かれた。
Prioninae sp. (Cerambycidae)
それ以外ではこんな奇虫も…。カマキリモドキはカマキリとは全く別のグループに属するが、その形たるや本当にカマキリそっくり。自然の妙に改めて感心させられる。
カマキリモドキの一種 Mantispidae sp. (Neuroptera)
コクヌストの一種 Trogossitidae sp.
翌朝、恒例の蝶モニタリングを行っていた時、林道上で獣糞を発見。そこには吸汁中の蝶に加えて、こんな虫がせっせと仕事中!
糞球を運ぶタマオシコガネの一種 Canthon sp. (Scarabaeidae)
4年ぶりに見るその姿に懐かしい気分になる。器用に脚で糞を切りとって丸め、猛スピードで転がしていく。その様子は何度見ても飽きることがない。
そして午後、昨日の蝶の吸水ポイントに行ってみると…。
集団吸水するアゲハチョウの一種 Heraclides sp. (Papilionidae)
なんと20頭近くものアゲハチョウが吸水しているではないか! こんな多数のアゲハの群れを見たのは初めてだ。面白いことに、隣の水たまりにはほとんどシロチョウばかりが、その隣ではモニマタテハ (Eunica monima)ばかりが集まっており、場所ごとに種類の違いが見られる。やはり同じ種同士が集まる傾向があるのだろうか。そんなことを考えながらも、目はその光景に釘付けに。いつまでも見ていたかったが、後ろ髪を引かれる思いで、森を後にした。
驚きと興奮、感動の連続の二日間であったが、ふと蝶の色彩パタンについて一つのことに気が付いた。それは、金属光沢をもつ種が、上の写真の2種以外、観察されなかったこと。例えば、ロス・セリートスではメタリックブルーのセセリチョウ (Urbanus, Astraptes) やウラモジタテハ (Diaethria)、青や緑に輝くカラスシジミ類(Theclinae)が雨季にたくさん見られたが、今回ここでは全く見られず。これらの種はこれから登場するのか、それとも、そもそもここにはいないのか? その答えを求めて、さらなる調査が続く。