Insecta Mesoamericana

グアテマラ在住の虫屋が綴る自然誌雑記

珍獣うごめく森

今日は、1か月前の調査旅行の話。行き先は、西部のアティトラン火山の山裾に位置するロス・タラレス自然保護区 Reserva Los Tarrales。野生動物の宝庫で(特に鳥の種類が多い)、昆虫も豊富だと聞いていたことから、いつか行ってみたいと思っていた。

この保護区の面白いところは、標高によって異なる景観の森が見られる点。麓付近(700 m)には熱帯雨林が広がっているが、1000mを超えたあたりから雲霧林帯へと移行する。今回は時間の都合上、雲霧林まで行くことはできなかったが、それでも麓の森で多くの生き物に出会うことができた。

 

森に入ると、早速カラフルな蝶がお出迎え。瑠璃色の紋をちりばめたカスリタテハHamadryas amphinome、黒地に赤紋を持つアゲハParides 、などなど。ふとホンジュラスにいた時のことを思い出して懐かしい気分になる。というのも、当時よく通っていた森もちょうど標高700~800 mで、こられの蝶が生息していたからだ。下の写真の種もその一つ。

 

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ウラナミタテハ Colobura dirce (Nymphalidae)

 

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ヘレノールモルフォ Morpho helenor montezuma (Nymphalidae)

 

ヘレノールモルフォはグアテマラには3亜種分布するらしい。東部のイサバル県の低地に分布するoctaviaに比べて、montezumaはメタリックブルーの色が若干薄い。最初見た時はモルフォだと気づかなかったほどだ。

 

森の中のログハウスに荷物を運び終え、下のトイレの戸を開けると、そこにはなんと!

 

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オオゴキブリの一種 Archimandrita tessellata (Blaberidae)

 

体長7cmもの巨大種との遭遇に、思わず歓喜の声をあげそうになる。幸先の良さに気を良くしながら、灯火採集に準備に取りかかかる。ログハウスの周りには全く明かりがないので、ナイターにはうってつけの場所だ。さあ、今夜はどんな虫たちがやって来るのだろうか。

と期待した割には、それほど大した収穫はなし。この辺りは農園が隣接していて、切り開かれてしまっているせいだろう。でも、下の写真のような面白い種が見られたので満足。特に、昼行性のセセリチョウ、それもこんな美麗種が飛来したのは意外だった。

 

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ヘリカメムシの一種 Coreidae sp.

 

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 コメツキムシの一種 Chalcolepidius lacordairei (Elateridae)

 

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セセリチョウの一種 Phocides sp. (Heperiidae)

  

翌朝、再び林道を散策し、多くの蝶を目撃。そして、こんな奇虫にも…。

 

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ツノゼミの一種 Guayaquila sp. (Membracidae)  

 

ツノゼミは、こうして成虫・幼虫が同居している場合が多いのだが、それにしても幼虫もこんなに立派な角を備えているのには恐れ入る。そして、小さなツノゼミの体表には、なんとさらに小さなダニがくっついているではないか!

 

そして、今回の旅の最大の成果は、5種類もの哺乳類に出会えたこと。一つ目はリス。まあ、これはグアテマラならどこにでもいる普通種だ。お次はアグーチ(グアテマラではcotuzaと呼ばれている)。林道をリズミカルにちょこちょこ走っていく。これもホンジュラスで何度か見たことがある。そして、木から木へ群れで移動中のハナグマ(スペイン語ではpizote)。ハナグマはティカル遺跡では普通に見られるが(観光客による餌付けが問題になっているらしい)、こうして森の中で見ると、またひと味違った趣がある。そして、下の写真の2種。

 

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オジロジカ Venado cola blanca

 

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ハリネズミの一種 Puerco espín

 

灯火採集の準備をしていると、目の前にシカの親子が…。驚いたことに、近寄っても逃げる様子がない。前述のように農園があって人が結構出入りしているので、人馴れしているのだろうか。おかげで、近距離でじっくり観察することができた。

ハリネズミもここまで間近で観察したのは初めてだ。こちらを恐れる様子もなく、ゆっくりとした動作で葉を食んでいる。長く伸びた前歯がなんとも愛くるしい。

 

通常、野生の哺乳類の大半は夜行性で警戒心が非常に強いため、なかなかお目にかかることはできない。その意味でも、立て続けにこれほどの種に出会えて、非常に幸運だった。1泊2日の慌ただしい旅だったが、グアテマラの自然の新たな一面を垣間見た素晴らしいひとときだった。