数字蝶の謎
すっかりご無沙汰してしまった。忙しさにかまけて更新を怠ってしまい、ブログの存在すら忘れかけていたが、ブログ開設から1年のこの節目の日に再開したい。
まずは、直近の昆虫調査の話から。8月19日にアルタ・ベラパス県のサン・ペドロ・カルチャ市(以下、カルチャ)のカルダモン農園を訪問。害虫の研究をしている友人の調査に同行させてもらえることになったからだ。カルチャは、県都コバンから車で15分ほどの所にある小さな町。前日夕方に現地入りし、宿泊したホテルで灯火採集を試みる。敷地内に小さな林があるので、どんな虫が来るだろうかと期待が高まる。
ロスチャイルドヤママユ Rothschildia orizaba (Saturniidae)
シデムシの一種 Oxelytrum discicolle (Silphidae)
ヨコバイの一種 Cicadellidae sp.
結果はまずまずといったところ。めぼしい虫は少なかったが、久々に巨大ヤママユガが見られたので満足。ちなみに、シデムシはグアテマラにはわずか3種しか分布しない。
翌朝、友人とともに例の農園へ。カルダモンは南アジア原産のショウガ科植物で、種子が香辛料として利用されている(インドカレーの材料の一つ)。アルタ・ベラパス県では広範囲にわたって栽培されており、コーヒーと並ぶ主要作物。ただし、国内で消費されることはなく、全てインドや中近東などへの輸出用だ。
カルダモンの葉
カルダモンの花と実
彼の研究対象は、実を食害するカルダモンアザミウマ Sciothrips cardamomi (Thysanoptera)という微小昆虫(体長1~2mm)。食害されても実の中身にはほとんど影響しないが、見た目が悪くなるため、市場価値が大きく低下してしまう。さらに厄介なことに、成虫・幼虫ともに巻葉の付け根や未成熟花序の先端部に潜り込んでいるため、天敵を用いた生物防除が使えない。防除法としては、農薬散布か、葉をめくって一頭ずつ手で潰すといった原始的な方法しかないのが現状だ。
農道でこんな甲虫を発見! 体長2cm以上もの大型種だ。
オオキノコムシの一種 Gibbifer guatemalae (Erotylidae)
調査は昼過ぎに終了し、帰途につく。その後、僕だけ途中のビオトポ・デル・ケツァール(バハ・ベラパス県プルラ市)の前で下ろしてもらう。すぐ近くにある宿で昆虫調査をするためだ。協力隊員時代には、サラマから近かったこともあって、この宿にも何度もお世話になったが、首都に移り住んでからはもう1年以上行っていなかった。
ここでも、同様に灯火採集を実施。珍虫は得られなかったが、前日に比べたら多くの昆虫が飛来した。
メダマヤママユ Automeris pallidior (Saturniidae)
エレクトラヤママユ Lonomia electra (Saturniidae)
ヒトリガの一種 Arctiidae sp.
ヒサシサイカブト(メス) Heterogomphus chevrolati (Dynastinae: Scarabaeidae)♀
ウグイスコガネ Platycoelia humeralis (Scarabaeidae)
この旅で思わぬ収穫があった。両調査地でウラモジタテハを採集したのだが、なんとこれら2個体は別種だったのだ(カルチャの個体はDiaethria astala、プルラの個体はD. anna)。翅の裏の数字模様はほぼ同じだが、表の模様が顕著に異なる。ちなみに、サラマのロス・セリートスに分布するのはastalaの方だ。これを地図上で見てみると、サラマから北上してプルラに行くとannaに置き換わり、さらに北上してカルチャまで行くと再びastalaが現れる、という興味深いパターンが得られる。標高は、サラマが950~1150m、カルチャが1300m、プルラが1500~1600m。この分布は標高のみで決まっているのだろうか? それとも標高以外の要因も影響しているのだろうか?
アンナウラモジタテハ(翅の表面と裏面) Diaethria anna (Nymphalidae)
アスタラウラモジタテハ(2011年7月29日撮影、サラマ) Diaethria astala (Nymphalidae)
最後に、グアテマラの国鳥の写真を。1年ぶりに見るその姿は、やはり得も言われぬほど美しかった。オスは繁殖を終えると、その長い飾り羽を落としてしまう。繁殖期が終わりに近づいているこの時期に、飾り羽を持った個体が見られたのは幸運だった。
ケツァール(オス)