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Insecta Mesoamericana

グアテマラ在住の虫屋が綴る自然誌雑記

珍獣の森、再訪

アティトラン湖を出て、我々が次に向かったのは、ロス・タラレス自然保護区(Reserva Los Tarrales)。私にとっては1年4か月ぶりの訪問だ(前回の旅の詳細は2015年9月11日のブログを参照)。さあ、今回も色とりどりの蝶、そして珍獣たちに出会えるだろうか…。

 

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コーヒーの苗

 

保護区のゲートを通り過ぎてまず目についたのは人。総勢100人近くものグアテマラ人が建物の周りにいる。彼らはコーヒー収穫のために県外から出稼ぎに来た人達。Finca Los Tarrales(ロス・タラレス農園)の別称が示す通り、そして上の写真のように、ここはコーヒー農園でもあるのだ。彼らは基本的に1か月間の契約で出稼ぎに来ており、1か月経てばまた次のグループの人達がやって来るというわけだ。コーヒーはグアテマラの主要産業だが、その裏にはこんな大規模な人の移動があったことを気付かされた次第。

 

さて、昆虫の話に入ろう。まずチョウだが、乾季に入ってしまったせいか、前回に比べてはるかに少ない。モルフォもわずか1回しか目撃できず。それでも、下の写真の種をはじめ、ドクチョウ、トンボマダラの類は比較的多く観察することができた。

 

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アゲハの一種 Parides eumerides (Papilionidae)

 

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タテハチョウの一種 Pyrrhogyra otolais (Nymphalidae)

 

甲虫は、宿舎の近くでこれら2種を発見!

 

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カミキリムシの一種 Cerambycidae sp.

 

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ベニボタルの一種 Lycidae sp.

 

夜には恒例のナイター(灯火採集)を実施。今回は2泊したので場所を変えて二晩連続で試みたが、それほど多くの昆虫は集まらず。両地点とも開けた場所にあるためか、それとも乾季だからか…。それでも、下のような奇怪な昆虫を見ることができて満足。下のカノコガは本当にハチそっくりで、その擬態の精巧さには恐れ入る。

 

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カノコガの一種 Isanthrene sp. (Erebidae: Arctiinae: Ctenuchini)

 

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ビワハゴロモの一種 Fulgoridae sp.

 

そして、再びこの動物に遭遇!

 

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オジロジカ

 

前回同様、夕方にキャビンの付近で親子連れ(メス1頭&子供数頭)を目撃。キャビンの周りには農地が広がっていて、いろいろな作物が植わっているので、シカにとっては格好の採餌場所なのだろう。その証拠に、翌朝にも同じ場所で数頭目撃した。

 

ただ、今回の訪問で最も興味を惹かれたのは、もっともっと小さな動物。それはヤシの花に飛来した虫たちだ。

 

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テーブルヤシの一種 Chamaedorea tepejilote 

 

開花中のヤシの花序を見つけたので、何気なく見てみると、ショウジョウバエ、ハネカクシ、そして謎の微小甲虫が多数群がっている。この甲虫はてっきりケシキスイだとばかり思っていたが(なぜならヤシの花にはMystropsという属のケシキスイが集まるため)、後日顕微鏡で観察してみると、違う科であることが判明。

 

ヤシの送粉様式は非常に面白い。風媒の種もあれば、虫媒の種もあり、さらに両方の様式を併せ持つ種もある(例えば南米に分布するOrbignya phalerataなど)。そして、虫媒の種における主な送粉者は甲虫、とりわけケシキスイ科とゾウムシ科で、ケシキスイ科の中ではMystrops属のみが特異的にヤシの花を訪れる、というわけだ。

 

このヤシの一般名はPacaya。中米では若い花序が食用として利用されており、市場などでよく売られている。論文を検索してみたところ、Pacayaは風媒とのこと。ただし、前述のように、風媒の種であっても、昆虫が送粉に寄与している可能性は大いにある。ということは、この甲虫はひょっとしたら送粉者なのかも…と妄想は膨らむ。

 

ヤシの送粉シンドロームに関しては今までに多数の研究がなされてきているが、Pacayaの花に集まる昆虫に関する研究はほとんどない。Pacayaを含めたグアテマラのヤシの訪花昆虫相をきちんと調べてみる価値はありそうだ。

 

さて、旅の方はといえば、この後首都を経由して、最終目的地に向かう。行先は、本ブログで度々紹介してきた、あの乾燥林。次回へと続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湖岸に広がる森の多様性

11月後半に旧友と一緒にグアテマラ各地を旅行した。やや駆け足ではあったが、グアテマラの自然と文化の多様さに触れることのできた1週間だった。特に、植生の異なる4か所の森を訪問できたのは、私にとっても非常に興味深かった。そこで、今回から3回に分けて、我々が訪れた森とそこに棲む生き物たちを順に紹介することにしよう。

 

最初の訪問地はアティトラン湖。その美しさはグアテマラ随一と言われており、湖畔の街パナハッチェル(以下、パナ)はグアテマラを代表する観光地の一つ。さらに、湖岸沿いには様々な文化・伝統を持つマヤの人々が暮らす村が点在しており、こうした文化的多様性もこの地域の大きな魅力となっている。

下の写真はパナの船着場から撮影したもの。向こうに見えるのはアティトラン火山だ。

 

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最初に訪れたのは、サン・マルコス・ラ・ラグーナ。パナからボートで40分ほどの所に位置する、こぢんまりとした村だ。至る所にヨガ、指圧、ホリスティック・セラピーなどの教室の看板が目につく。それらが並ぶ路地を抜けて辿り着いたのは、セロ・ツァンクヒル(Cerro Tzankujil)という森林公園。湖岸一帯の標高は1500m前後で、山地林(マツ・カシ林)が優占しているが、このエリアにはわずかながらも乾燥林が分布しているのだ。

 

園内にはサボテンやパロ・ヒオテ(Bursera simaruba: Burseraceae)など、ロス・セリートスでお馴染みの植物が見られる。マツとの混交林ではあるものの、確かに乾燥林植生の特徴を有しているのがわかる。

  

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ウチワサボテンの一種

  

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イトトンボの一種

  

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飛び込み台から火山を臨む

 

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マヤの祭壇

 

さらに面白いのは、この森にはマヤの遺跡が残っていること。上の写真の祭壇のほかに、3つの祭壇がある。向かいにある丘もマヤの人々にとっての聖地だそうだ。グアテマラの乾燥林には、ロス・セリートスも含め、マヤ時代の文化遺産と一体となった場所が多いが、この地域もそうした森の一つと言えよう。

 

翌日にはパナの外れにあるアティトラン自然保護区(Reserva Natural Atitlán)を訪問。入口には日本語の看板まである。

 

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ここの目玉はグアテマラ唯一の蝶園。園内には飼育室があり、羽化した蝶が毎日ドーム内に放されている。蛹も展示されており、運が良ければ羽化の瞬間を見ることができる。ここに来るのはもう4回目だが、何度来ても心癒される空間だ。

 

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オオカバマダラの蛹

 

この保護区の森の植生はマツ・カシ林。園内には林道が整備されており、野生の蝶も豊富に見られる。すぐ下の写真の蝶はアゲハそっくりだが、実はシロチョウの仲間。 

 

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タカネマダラシロチョウの一種 Catasticta nimbice (Pieridae)

 

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ヒカゲチョウの一種 Oxeoschistus tauropolis (Nymphalidae: Satyrinae)

 

この後、我々はアティトラン湖東側の山々の間を抜け、本ブログで以前紹介したロス・タラレスへと向かう。その話は次回に…。

蝶吹雪!

季節変化というのはこれほど凄まじいものなのか。それを思い知らされる出来事が先月末にあった。

6月20日、例の乾燥林保護区を再訪。雨季に入ってから初めての調査だ。麓の道沿いの木々はみな若葉をつけており、その新緑が眩しい。昆虫もさぞかしいろんな種が出現していることだろうと期待に胸が高まる。

 

なお、この写真は保護区の中で2月末と同じアングルから撮影したもの。

 

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林道を車で走っていたその時、水たまりで吸水する蝶の集団を発見。車を降りると同時に、その蝶たちが一斉に舞い上がる。まさに蝶吹雪! あまりの光景にしばし呆然と立ちつくす。我に返って車に戻り、荷物を宿舎に置きに行った後、再び戻って来てゆっくり観察することに…。

優占種は下の写真のキノハタテハとシロチョウ類。キノハタテハは裏面はこのように地味だが、表は鮮やかな赤茶色をしている。飛び立った時にその色がフラッシュして印象的だ。シロチョウは少なくとも5種はいるだろうか。真っ白な種から、淡黄色の種、山吹色、オレンジ色の種まで、色とりどりだ。

 

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アメリカキノハタテハ Anaea aidea (Nymphalidae)

 

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水たまりで吸水するシロチョウ類 Pieridae spp. 

 

そしてこんなカラフルな種も…。下のシジミタテハはロス・セリートスでは見られなかった種だ。

 

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ボルボネウラタテハ Bolboneura sylphis (Nymphalidae)

 

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トガリバシジミタテハ Lasaia sula (Riodinidae) 

 

他によく目についたのがこの種。頭部先端の突起が天狗の鼻のように見えることから、この名がつけられている。ロス・セリートスでは2年間で1頭しか採集されなかったが、ここではわずか数時間で10頭以上も確認。こんなところにも両調査地の蝶相の違いが見て取れる。

 

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ナンベイテングチョウ Libytheana carinenta (Nymphalidae)

 

さて、日没後、満を持してナイター(灯火採集)を開始。いわゆる「当たり」の日には、電灯を付けた直後から虫が飛来し始めるものなのだが、この日は20分以上経ってもツチカメムシばかり…。今日は外れかと思いかけたその時、蛾が徐々に飛来し始める。そして、あれよあれよといううちに、シーツはこんな状態に!

 

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灯火に飛来した蛾

 

なんと中型・小型のヤガ・シャクガ・メイガが次から次へとやって来る! 大型種が少ないぶん、派手さには欠けるものの、その光景たるや圧巻。

 

甲虫では、大きさ・形の様々なカミキリムシが次々飛来。まだ標本をカウントしてないが、おそらく10種以上はいたはず。その多様性の高さに改めて度肝を抜かれた。

 

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Prioninae sp. (Cerambycidae) 

 

それ以外ではこんな奇虫も…。カマキリモドキはカマキリとは全く別のグループに属するが、その形たるや本当にカマキリそっくり。自然の妙に改めて感心させられる。

 

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カマキリモドキの一種 Mantispidae sp. (Neuroptera)

 

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コクヌストの一種 Trogossitidae sp.

 

翌朝、恒例の蝶モニタリングを行っていた時、林道上で獣糞を発見。そこには吸汁中の蝶に加えて、こんな虫がせっせと仕事中!

 

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糞球を運ぶタマオシコガネの一種 Canthon sp. (Scarabaeidae)

 

4年ぶりに見るその姿に懐かしい気分になる。器用に脚で糞を切りとって丸め、猛スピードで転がしていく。その様子は何度見ても飽きることがない。

 

そして午後、昨日の蝶の吸水ポイントに行ってみると…。

 

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集団吸水するアゲハチョウの一種 Heraclides sp. (Papilionidae)

 

なんと20頭近くものアゲハチョウが吸水しているではないか! こんな多数のアゲハの群れを見たのは初めてだ。面白いことに、隣の水たまりにはほとんどシロチョウばかりが、その隣ではモニマタテハ (Eunica monima)ばかりが集まっており、場所ごとに種類の違いが見られる。やはり同じ種同士が集まる傾向があるのだろうか。そんなことを考えながらも、目はその光景に釘付けに。いつまでも見ていたかったが、後ろ髪を引かれる思いで、森を後にした。

 

驚きと興奮、感動の連続の二日間であったが、ふと蝶の色彩パタンについて一つのことに気が付いた。それは、金属光沢をもつ種が、上の写真の2種以外、観察されなかったこと。例えば、ロス・セリートスではメタリックブルーのセセリチョウ (Urbanus, Astraptes) やウラモジタテハ (Diaethria)、青や緑に輝くカラスシジミ類(Theclinae)が雨季にたくさん見られたが、今回ここでは全く見られず。これらの種はこれから登場するのか、それとも、そもそもここにはいないのか? その答えを求めて、さらなる調査が続く。 

 

巨大トカゲ棲む森:動物編

今回は前回の続きで、例の乾燥林の動物相を紹介。実は、1週間前にまたこの保護区を訪れた。なぜこんなに頻繁に通っているかというと、チョウのモニタリングをすることにしたからだ。月1回チョウの種類を記録していくだけだが、継続調査を通して何らかの季節性のパタンが検出できればと目論んでいる。

 

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フェブルアカスリタテハ Hamadryas februa (Nymphalidae)

 

乾燥林を代表する蝶の一つがカスリタテハ。低地熱帯林にも広く分布するが、この種の渋い色合いは乾季の森によく似合う。常に頭を下にして静止し、オスは縄張りに侵入した他オスを追い払う際にパチパチという音を出す(ただし発音行動を示す種と示さない種がいるらしい)など、興味深い行動的特徴を有するチョウだ。

 

乾季ということで全体的に種数は少なかったものの、シロチョウ科のKrigonia属、Phoebis属, Eurema属の種が多く見られた。いかんせん俊敏に飛翔するため、ほとんど採集できなかったが…。他に多かった種としては、ジャノメチョウの一種(Cyllopsis sp.)とモニマタテハ(Eunica monima)で、どちらも地味な色合いの種だ。。

 

他に見かけた虫も、地味な色彩のものが多かった気がする。

 

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カマキリの一種 Mantidae sp.

 

そして、最もよく目につく虫がアリジゴク。巣の形は日本にいる種とよく似ている。砂地の場所が多いので、彼らの営巣地としてはうってつけだろう。

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ウスバカゲロウの成虫(左)と幼虫の巣(右) Myrmeleontidae sp.

 

昆虫以外では、こんな奇怪な虫も! 

 

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ウデムシの一種 Amblypygi sp.

 

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ヒヨケムシの一種 Solifugae sp.

 

どちらもクモ・サソリの仲間(Arachnida)。世界三大奇虫などと呼ばれているらしいが、中米の乾燥域では普通に見られる種だ。実際、ウデムシはロス・セリートスで前に何度か見たことがあるし、ヒヨケムシのほうはこの保護区で二回も目撃した。

 

初回の訪問時には、林道でこんなものを発見!

 

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チャズキンハチクイモドキの死骸 Momotus mexicanus

 

一般に、鳥の死骸を見つけるのは非常に難しいので(捕食者が持ち去ってしまう上に、すぐに分解されるから)、こんな完全な形のものが見られたのは幸運だった。

 

生きている個体には何度も遭遇。尾羽の形が何とも特徴的だ。ちなみに、ロス・セリートスにはアオマユハチクイモドキ Eumomota superciliosaという別種が分布している。

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チャズキンハチクイモドキ Momotus mexicanus

 

他にもウツクシキヌバネドリ Trogon elegansという、胸が真っ赤な美鳥も目撃。この森は野鳥の宝庫でもあり、今までに60種以上も記録されている。

 

さあ、本日の、そしてこの森の主役、登場!

 

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モタグアドクトカゲ Heloderma charlesbogerti (Sauria: Helodermatidae)

 

グアテマラにのみ、それもこの地域にのみ分布する固有種。メキシコドクトカゲHeloderma horridum の亜種だったが、最近、種に格上げされた(上記の和名は仮)。

体長は60cmはあるだろうか。英名Beaded lizardの通り、体はビーズ状の鱗で覆われている。この個体は園内での飼育・鑑賞用にスタッフが特別に捕獲したもの。乾季には極端に活動性が鈍るため、野生の個体を見つけるのは極めて難しい。写真では見たことがあるが、やはり実物を目にすると感慨もひとしお。

スタッフが手慣れた手つきで首根っこをつかみ、口の中を見せてくれた。下顎に毒腺があるが、攻撃性が弱いため、何もしなければ向こうから噛みついてくることはほとんどないようだ。

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最後に、おまけとして第3回の訪問時の写真を。乾季もそろそろ終わりに近づいているため、セミが盛んに鳴いていた。灯火採集では、セミに加えてミツバチも多数飛来。分封の時期なのだろうか?

 

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植物では、前回紹介したドゥルーチェの実を発見。テコマスーチェやカルコモも花期が終わり、代わりにバイニージョという木が開花。森の景観や気候からだけだと、一見、変化がないように思えるが、実際は徐々に季節は変化していっているのだ。あと1か月もすれば、いよいよ雨季が到来。さて、どんな生き物たちが現れるのだろうか。来月の調査が今から心待ちだ。

 

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Durucheの実 Bonellia macrocarpa (Thephrastaceae)

 

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Vainilloの 花 Senna candolleana (Caesalpiniaceae)

巨大トカゲ棲む森:植物編

乾燥林(季節林)というのは面白いところだ。乾燥しているから生物は少ないと思いきや、そこでしか見られない固有種が多く生息する。確かに乾季には生き物の数は減少するものの、雨季の初めに植物が一斉に新葉を出すのに合わせて多くの昆虫が出現する。こうした劇的な季節変化も乾燥林生態系の魅力の一つ。グアテマラにも広範囲にわたって乾燥林が分布するが、生物相の基礎的な情報はまだまだ不足しているのが現状だ。

私は協力隊員時に2年間、ロス・セリートスという乾燥林で昆虫調査を行い、その豊かな生物多様性と季節性に魅了されてきた。ただ、今に至るまでロス・セリートス以外の乾燥林を訪れる機会がなかったが、ようやくそのチャンスが巡ってきた。

ここは東部サカパ県にある自然保護区。グアテマラ中央部からカリブ海手前にかけてValle de motaguaという谷があり、その谷沿いに乾燥林帯が広がっている。この保護区はまさにそのモタグア谷の中心に位置する。標高は500~700mで、ロス・セリートス(950~1150m)よりも低い。もうすでに2回(2月末と3月中旬)この森を訪れる機会を得た。この地域にはモタグアドクトカゲHeloderma charlesbogertiという固有種が生息するのだが、この話は次にするとして、今回は植物の話題のみ取り上げる。

 

この時期は乾季真っ只中なので、森は一面褐色だ。

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乾燥林を代表する植物の一つがサボテン。*をつけた種はロス・セリートスとの共通種。Cabeza de viejoは「老人の頭」, Cola de gatoは「猫のしっぽ」という意味で、どちらもその見た目をうまく表している。

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上段左から順に、*Organo común (Stenocereus pruinosus), *Chilillo (Melocactus sp.), *Nopal  (Nopalea sp.1), Nopal (Nopalea sp.2),

下段左から順に、*Cabeza de viejo (Pilosocereus leucocephalus), Cola de gato (Disocactus sp.), Mamillaria sp.1, Mamillaria sp.2

 

この巨大なブロメリアは、ドクトカゲが隠れ家として利用する。

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Piña de coche (Hechtia guatemalensis: Bromeliaceae)

 

開花している数少ない植物がこれら。テコマスーチェの大きな黄色い花は遠くからでもよく目立つ。この植物は女性の安産を促す薬としても使用されるそうだ。

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Carcomoの花 (Caesalpinia exostemna: Caesalpiniaceae)

 

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Tecomasucheの花と実 (Cochlospermum vitifolium: Cochlospermaceae)

 

この灌木は乾季にのみ開花するという不思議な植物。よく見ると、葉の先端に小さな刺がある。トゲ植物が豊富なのも、乾燥林の植物相の重要な特徴。

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Duruche (Bonellia macrocarpa: Thephrastaceae)

 

この木の樹脂はマヤの儀式に利用される。今でも儀式の際にはincensario(提げ香炉)の中にお香を入れて焚くのだが、その時にこの樹脂を入れて燃やすのだそうだ。

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Campón (Gyrocarpus americanus: Hernandiaceae)

 

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幹に付着して固まったCampónの樹脂

 

以上の話は全て同行してくれたガイドから聞いたもの。この村で生まれ、この森を知り尽くした彼は、生き物の名前のみならず、それにまつわる様々な話まで教えてくれて、一緒に歩いていて本当に楽しかった。そして、ロス・セリートスとの共通点と相違点を発見することができたのも大きな収穫だった。ちなみに、上に示した植物5種はセリートスには分布しない。乾燥林と一口に言っても、グアテマラ国内だけでもこんなにバリエーションがあるのだと、さらに興味が深まった次第。

さて、次回はこの森の動物たちを紹介する予定!

昆虫図鑑完成、そして活用へ

気がつけば、前回の更新からなんと半年。またまた間が空いてしまったが、気を取り直して再開したい。

紹介したい虫の話は山ほどあるが、まずは一つ報告をしておきたい。前々回のブログで少し触れたように、同僚らとともにグアテマラ昆虫図鑑の作成に取り組んでいたのだが、それが昨年11月に完成したのだ。

本図鑑のコンセプトは、一般の人々を対象としたフィールド図鑑。野外に携行可能なコンパクトサイズ(11×17cm、200ページ)。専門家以外の人々も理解できるよう、多くの生態写真を掲載し、生息場所や食性の情報をシンボルで表記。さらに、教材としての用途を想定して、昆虫学の基礎とグアテマラの自然に関する解説も設けた。

このようなフィールド図鑑は、日本ではお馴染みだが、グアテマラには未だかつて存在しなかった(鳥のフィールド図鑑は一応あるが英語表記)。そのこともあってか、おかげさまで好評を頂いており、この5か月で売れた部数は約250部! 売れ行き好調のもう一つの理由は100ケツァール(約1500円)という価格設定だろう。日本だとそれほど驚くべき値段でもないが、グアテマラではこれは画期的な額なのだ。なぜなら、出版費用が非常に高いから。コストが高いから本の値も上がる、高いから売れない、売れないから作らない、という悪循環に陥り、ゆえに本がなかなか普及しない。幸い、我々の場合は日本の財団の助成をもらえたことと、印刷・製本代を安くしてもらったおかげでこの額にできたが、でなければこれだけ多くの写真の入った本をこの値段で売るのは不可能だったに違いない。

翻って、日本はなんと本に恵まれた国か。図鑑に関しても、動植物から鉱物に至るまで、専門的なものから子供向けのものまで、ありとあらゆるものが揃っている。まさに、「図鑑大国ニッポン」をこちらに来てから感じた次第。このような図鑑の豊富さが、日本人の生き物に対する関心を育んできたといっても過言ではないだろう。本図鑑を通してグアテマラの人々に昆虫のことをもっと知ってもらえたら、そして自然全体に興味を持ってもらえれば、というのが我々のささやかな願いだ。

さて、次なる課題は、前々回書いたように、いかに活用していくかという点。その第一弾が大学の講義での使用だ。既にこの1月から同僚が担当している昆虫学の授業で副教材として使ってもらっている。私もアシスタントとして出席しているのだが、学生が図鑑を見ながら講義を聴き、また実習中にも何度も図鑑を参照している姿を目にする度に、自分たちの作ったものが役立っていることを実感できて本当に嬉しくなる。昨日は、私が蝶と蛾の講義を担当。発表準備の際には自分自身がこの図鑑を参照しながらスライドを作り、何とかプレゼンを終えることができて、一段落。

ちなみに、5、6月には図鑑活用も絡めたイベントを二つ予定しており、これからはその準備に追われそうだ。

最後に、表紙と裏表紙の写真の裏話を。表紙写真は昨年4月に野外実習で大学の研究林に行った時に撮影したもの。両生類・爬虫類の観察のために学生たちと夜の森を歩いていた時、林道脇で羽化したばかりのセミを発見! 夜間撮影ではピント合わせやストロボの光度調整などで失敗することが多いが、この時ばかりはどちらもうまくいった。共編者の先生がこの写真を気に入り、表紙を飾ることになった。なお、この森では他にも今までにないほど多数の昆虫に出会ったのだが、その話はまたの機会に。

裏表紙の写真もちょうど1年前に撮影。セマナ・サンタ(聖週間)に、協力隊員時代の任地だったサラマに遊びに行った時のこと。こちらではセマナ・サンタの期間には、alfombra(文字通りの意は絨毯)と言って、下の写真のように、色をつけたおがくずを使って路上に様々な絵を描く。それはまさに絨毯を彷彿とさせるもので、一種のアートでもある。友人と一緒にこれらを鑑賞しながらそぞろ歩き、中央公園にやってきた時、一頭の蝶がアルフォンブラに飛来! 風でおがくずが飛んでしまわないよう水を巻くのだが、その水分を吸いにやってきたのだ。周りは人でごった返していたが、息を凝らして蝶に近づき、這いつくばるようにして夢中でシャッターを切った。この図鑑ではグアテマラの文化・伝統と昆虫との繋がりについてもコラム形式で紹介しているが、この写真もそうした文化的な一面を反映した一枚と言えよう。

 

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表紙:セミの羽化(Cicadidae sp.)

 

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裏表紙:吸水するエピダウスオナガタイマイ Protographium epidaus (Papilionidae)

 

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路上に描かれたalfombra(バハ・ベラパス県サラマ市)

 

数字蝶の謎 ~その3~

10月に入って雨季もそろそろ終わりかと思いきや、数日前から低気圧の影響で連日の雨。今日ようやく上がったが、あちこちで土砂崩れが起こっているようで、予断を許さない日が続きそうだ。一刻も早く天気が回復することを願うのみ。

 さて、今日はウラモジタテハの話の第三弾。実は、あの後、二種の混棲地を立て続けに2か所見つけたのだ。順を追って振り返るとしよう。

 9月19日、大家さんの息子さんとサンタ・ロサ県の某所へ。ここは彼が足繁く通っているフィールドの一つ。噂は彼からかねがね聞いていたが、行ってみてびっくり。噂に違わない、まさに蝶の楽園だった。最初に立ち寄った河川敷では、金属光沢を持つツバメガや巨大なシジミチョウに遭遇。

 

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ツバメガの一種 Uranidae sp.

 

と、岩の上に1頭の蝶が飛来!

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ミネラルを摂取するアンナウラモジタテハ Diaethria anna

 

 次に訪れた国道沿いの森では、切通しの崖で吸汁するウラモジタテハ二種を目撃。最後に訪れた集落でも両種が見られた。そして、ここではなんと農道の水溜りでタテハチョウ、シロチョウ、シジミタテハのありとあらゆる種が集団吸水! なかでも、白モルフォMorpho polyphemusと青モルフォMorpho helenorの両方を見られたのは圧巻だった。人と車の往来が激しかったため、生態写真の撮影はほとんどできなかったが、貴重な光景を目の当たりにし、そして貴重なデータが得られた旅だった。

 

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ポリフェムスモルフォ Morpho polyphemus

 

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ヘレノールモルフォ Morpho helenor

 

 翌週の日曜、今度はアルタ・ベラパス県のサンタ・クルス・デ・ベラパス市へ。県都コバンとプルラのほぼ中間に位置する小さな街だ。保護区の宿舎前で早速アンナウラモジタテハを目撃。そして、林道を歩いていると、なんとヘレノールモルフォが! モルフォといえば蒸し暑い熱帯雨林のイメージがあるが、意外や意外、こんな涼しい山地林(標高1400m)にも生息しているのだ。

 

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  ヘレノールモルフォ Morpho helenor

 

 ふと林道沿いの電信柱を見ると、そこにはなんとウラモジタテハが鈴なりに! その数、15個体以上。アンナに混じってアスタラも数頭いる。よく見ると、孔からセメントが流れ出た痕があり、そこからミネラルを摂取している。俊敏に飛翔するうえに、電柱上に止まっていることもあって、採集するのは至難の業だったが、その代わりじっくりと行動を観察することができた。

 

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ミネラルを摂取するアンナウラモジタテハDiaethria anna(下)とアスタラウラモジタテハD. astala(上)

 

以下、これらの調査でわかったことをまとめておく。

 ①アンナには地理的変異あり

サンタ・ロサ県の個体とベラパス2県(プルラ及びサンタ・クルス・デ・ベラパス)の個体では、翅の色彩パターンが顕著に異なる。前者には後翅表面に金緑色の太い帯があるが、後者ではその帯はきわめて細い。また、裏面の「88」の模様は、後者の方が前者よりもラインが太い。一方、アスタラでは地域間で色彩の違いは見られず。

 ②密度はアンナ>アスタラ

サンタ・イサベル農園でも、今回訪れた2か所でも、個体数は常にアンナの方がアスタラを上回っていた。大雑把なカウントだが、アスタラ1頭に対してアンナ3~5頭の割合だった。

 ③ミクロハビタットは種間で重複

活動場所を種間で違えているのかなと思ったが、ミネラル吸収個体を見る限り、そのような傾向はなし。写真のように、同じ場所で両種が吸汁していたからだ。縄張り・求愛・採餌などの場所が種間で異なっている可能性はあるので、これだけで棲み分けなしと決め付けるのは早計だが、少なくとも生息場所が重なっていることは確かだろう。

 ④異種間の相互作用は少

行動を観察していると、写真のように二種が近接する場合があったが、不思議とこれらの個体間の干渉行動は見られなかった。一方、アンナ同士、アスタラ同士ではそれぞれ同種他個体に正面から接近する行動が一回ずつ見られた。雌雄までは判別できなかったが、求愛行動かもしれない。これを見る限り、少なくとも静止時には互いに種認識できている可能性が高そうだ。飛翔中の干渉(他種個体の追飛)があるかどうか、興味あるところ。

 それにしても、標高も植生もこんなに大きく違うのに(サンタ・ロサ県の森は標高700~800m)、2か所とも両種が混棲しているのは不思議だ。モルフォもそうだが、こうして環境要因だけで説明できないパターンに出会うと非常に興味をそそられる。

 ちなみに、10月に入ってからも、首都のParque Cayaláとアンティグア近郊でそれぞれアスタラを1頭ずつ目撃。これらのサイトは、単独生息地なのか、それとも混棲地なのか…。謎の解明に向けて、調査はまだまだ続く。